金子を野山獄へ移せ~長州(103) [萩の吉田松陰]

SH3B0419.jpgSH3B0419この先の浜が女台場
SH3B0420.jpgSH3B0420シュロの木の道案内
SH3B0421.jpgSH3B0418「野山獄跡入口」バス停
SH3B0423.jpgSH3B0423「野山獄跡」

立派な屋敷の角を曲がって浜へ行けば女台場へいける。
シュロの木に見守られながら、私は野山獄へと歩いていく。

20分ほど萩市内に向かって東へ歩いていった。
夏の昼下がりの太陽は体を痛めつける。

途中で堪らずスーパーに駆け込んで、アイスクリームと冷たいジュースを買った。
スーパーから程なく「野山獄跡入口」バス停に着いた。

バス停のそばの屋敷を見ると、手書き文字で「北浦自然観察会 行事参加者募集」と書き、活字で大きく「永井要明 連絡所」という看板が玄関にかかっている。

これは生活のイメージがあり、しかも政治家の事務所のようである。
バス停の前が野山獄ではないようだ。

パンフレットを見ると、そこから横の路地に入ってすぐのところに獄がある。

比較的交通量の多い国道を南へ右折すると、すぐに静かな道路になり史跡を示す石碑が見えてきた。

道路を挟んで右手(西)に野山獄が、左手(東)に岩倉獄がある。
野山獄は身分の高い士分の者の獄舎(上牢)で、岩倉獄は庶民用獄舎(下牢)である。

松陰が「幽囚録」を書いたのは「野山獄」の中だった。
ここに聾唖僧「宇都宮黙霖」が青年松陰に面会にやってきた。
松陰は面会を断っている。

松陰の弟が聾唖であることを調査した上で、月性が松陰へ向けて放った思想的扇動者だったと思う。

松陰はお見せするほどの顔ではないと面会を断ったが、文通は獄中から続けた。
その間に、松陰は朝廷と幕府の行動調整から討幕へと、その思想を変化させていく。

松陰を尊敬の眼差しで見上げていたあの金子重之助は岩倉獄で病死した。
松陰は金子を野山獄へ移すように要請したが拒絶されている。

防寒と栄養において大きな待遇差があったのであろう。

金子は至福の村、紫福村(しぶきむら)の出身である。
隠れキリシタンの村として萩観光パンフに乗っていた。

キリシタンだったとすれば、金子の最後はおそらく幸福感に包まれて眠るようだっただろう。
神が自分の行動を見ていてくれて、やがて神のもとに召されることに幸福を感じる。
キリシタン殉教ものの本を読むと、そういうものの考え方になれるようである。

それに比べると松陰の生き様は実に実利的、科学的である。

寒くて栄養の足りない岩倉獄では金子は死ぬ。だから野山獄へ移せと獄吏に命じている。

士分とはいえ、罪人の松陰の要求に官吏が応じるはずもない。
それでも実利を重んじるから松陰は獄舎の変更を要求した。

自分を岩倉獄へ移せとは言わない。
それでは金子も自分も死ぬからである。

また、金子と自分を交代させよとも言わない。
それでは自分が死ぬからである。

庶民を士分扱いせよと命じてしまうのである。
松陰の前には、法律も慣習もあったものではない。

それは「要求はどうせ通らないだろうから、はじめからあきらめて要求しない」という日本人共通の思考方式ではない。

まるで松陰に中国人を見ているような気がする。

松陰と金子が投獄されたのは安政元年(1854)10月である。
獄舎変更要求は、これから秋、冬を迎えるという時期の、松陰による金子救出戦略であったが実らなかった。

実ると期待して行動するのではない。
実ろうが実るまいが、そうすることで目的を達成しようとまずは「行動」するのである。

陽明学の危険性はこういう思考方式にあるのだろう。

法律に反しようが、こうすることが必要だとなれば、何も考えずに実行する。
革命実行にはもってこいの考え方である。
善悪判断の基準がぶれることが問題点ではある。

松陰ですら、判断基準は時期によってぶれにぶれている。

当初は朝廷の権威を救うために松陰は幕府を改心させようと考えていた。
武力で威嚇してでも幕府に攘夷を実行させようとしていたが、

宇都宮黙霖と書簡交換を始めてからは、討幕に考え方を転換している。
歴史の上では勅許を得ずに幕府が勝手に通商条約を調印した行為が松陰の思想の変化を起こしたとなっているが、聾唖の僧との交信にはそれ以外のやりとりがあったように思われる。

松陰が聾唖者に対して並々ならぬ愛情を持っていることを月性は知っていて宇都宮黙霖を派遣したのである。

松陰の末弟は聾唖者だった。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。