少年の住む家~長州(23) [萩の吉田松陰]

SH3B0074.jpgSH3B0074吉田松陰生誕地の案内板
SH3B0075.jpgSH3B0075敷地基礎石の跡
SH3B0074間取り図.jpgSH3B0074間取り図(案内板拡大図)
SH3B0078.jpgSH3B0078母屋跡
SH3B0079.jpgSH3B0079母屋の手前に納屋と厩(うまや)の跡

吉田松陰生誕地の案内板があった。
生誕地には敷地基礎石の跡だけが残っている。

敷地の奥も芝生の公園になっているが、昔は森の中そのままだっただろう。

案内板の間取り図を拡大して当時の実家の様子を想像してみよう。
私は、4~5歳の頃の幼い虎之助の修行時代を想像している。

玉木文之進の厳しい扱(しご)きを受け、涙をこらえた一日がようやく終わって少年は坂を上って自宅へ戻る。

右手に夕闇に沈みかかった萩城と市街を見降ろしながら、シュロの木の横を通って敷地内に入ってくる。

まず、左手に厩とそれにつながる納戸が見えたはずだ。
馬の嘶(いななき)きや鼻息が聞こえてくる。

次に台所と居間の前を通る。
母がコンコンと包丁を打つ音や、魚の煮物の香りが煙突を通って外へも伝わってくる。
蝋燭私は、4~5歳の頃の幼い少年虎之助の厳しい修行時代を想像している。

玉木文之進の厳しい扱(しご)きを受け、涙をこらえた一日がようやく終わって少年は坂を上って自宅へ戻る。
蝋燭の明かりで居間の障子が橙色に揺れている。

少年は居間の外を廻って玄関へと達する。
「がらがら」
玄関の扉を開ける。

「ただいま帰りました」

元気よく帰宅の挨拶をする少年のほほには涙の跡が光っていた。
こらえていた涙は、台所の匂いと音を聞いたときポロリとつい出てしまったのだ。
それは母の音と匂いだった。

玄関で草履を脱ぎ、足を手ぬぐいで拭きあがる。
すぐに表座敷に入る。

正面に仏壇があり、その前に座る。
線香を点け先祖へ一日の報告を済ませる。

右奥の隠居部屋へ向かい祖父へ挨拶をる。
「ただいま帰って参りました。」
「ご苦労じゃったのんたー」

隠居部屋を出ると、再び表座敷を通って居間へと入る。
「父上様、母上様、虎之助、ただいま戻りました。」

「ご苦労でござった」
母は黙って父と一緒にお辞儀をするだけであった。

母は日々変わっていく息子の日焼けしたたくましい顔に驚くとともに、手足の傷の多さを見て、わが身のことのように少年の痛みを感じるのだった。

以上、想像した光景の中で出てこなかったのは母屋の納戸だけである。

それほどに狭い生誕の地であった。

当時の武家屋敷の広さと比較すればとても狭い実家である。
農家の方がずっと広かったであろう。

ただ、東京の現在の平均的戸建住宅よりはずっと広いので誤解のないようにしなければならない。

大変貧しかった杉家よりも、現代の日本人は狭い家屋に住んでいる。
幸福とは家屋の広さだけでは計れないということであろう。

狭いながらも幸福な我が家と松陰は思えたかどうか、それはわからない。
10歳で藩主に講義をするほどまで成長せざるを得なかった少年にとって、「幸福」などという日和見な漢字は存在すらしなかったのではないだろうか。

脳の中はただ儒学の教習本と兵方学の書で一杯に詰め込まれていたはずである。
「悲しい」、「辛い」などという人並みな感情さえも抑圧しながら、日々を過ごしていたのではないだろうか。

捨て子同然で拾われてきた幼い子供などが、サーカス団で育てられ、危険な曲芸を披露するシーンがあり、昔はたまにそういうショーに出会う機会があった。

黙々と曲芸をこなす4~5歳の少年の特訓シーンは、きっと涙々の連続であったに違いない。

晴れやかな舞台に立ったからといって、少年が心底愉快な笑顔を見せることはない。
教えられたとおりの微笑を観客に返すだけである。

それが終わると、いつもの無表情に戻る。

まるで省エネ器械のような絵姿だ。
必要以上に無駄なエネルギーは消費しない。

感動したり悲しんだりするエネルギーさえ勿体ないように見える。

萩で生まれた普通の少年は、同じ日々の繰り返しによってやがて別の人格を伴う人間へと変わっていく。
私は生まれてすぐのありのままの虎之助が愛しいのである。

だから、なぜ虎之助は別人格へと変化する必要があったのかを知りたいと思う。

それは日本革命の火をつけるためだったと徳富蘇峰は言うが、それだけでは可愛い虎之助を死なせた説明として不十分ではないか。

真実を明かしてあげて、虎之助、松陰の死を鎮魂することが、一番の供養になるのではないか。

神社を建立して飾ったところで、あの虎之助が許してくれるはずがない。
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